黒木瞳『失楽園』覚悟の出演理由と36歳の真実|役所広司との秘話
ここで改めて、映画史に刻まれた『失楽園』のあらすじを振り返ります。大手出版社で第一線を退き、閑職に追いやられた編集者の久木祥一郎(役所広司)は、冷淡な夫との形式的な結婚生活に空虚さを抱えていた書道講師の松原凛子(黒木瞳)と出会います。互いに家庭を持つ身でありながら、二人は強烈に惹かれ合い、逢瀬を重ねていきます。
単なる火遊びでは終わらない関係は次第にエスカレートし、凛子の母からの指弾、久木の職場への密告状、そして家庭の崩壊へと発展していきます。社会的な立場や世間体をすべて剥ぎ取られた二人が行き着いたのは、軽井沢の別荘地でした。「愛が最高潮の瞬間のまま、永遠にひとつになりたい」と願った二人は、ワインに劇薬を混入させ、互いの身体を固く抱き締め合いながら心中を遂げます。
渡辺淳一氏が描いたのは、単なる不道徳な密通劇ではありません。性愛(エロス)の絶頂において死(タナトス)を受け入れることで、時間の劣化から愛を永遠に救い出そうとする哲学的な問いかけでした。黒木瞳さんはこの極限の女性心理を、透明感あふれる佇まいと内に秘めた激情のコントラストで見事に体現しました。