ワイングラスの持ち方は脚が非常識?「日本だけ」の真相と国際マナー
なぜワイングラスには、他の食器には見られない細長い脚(ステム)が存在するのでしょうか。その最大の理由は、人間の体温がワインの液体に与える熱伝導を遮断することにあります。
人間の手のひらの表面温度は平常時でおよそ33℃〜36℃あります。これに対し、白ワインの適温は8℃〜12℃、軽やかな赤ワインで12℃〜15℃、重口の赤ワインであっても16℃〜18℃と、体温よりもはるかに低い温度帯で最も美しく香りと味わいのバランスが整うよう設計されています。ワインジャーナリストによる検証実験では、室温22℃の環境でボウルを手のひら全体で包み込むように持った場合、わずか5分間で液体温度が約3.5℃上昇し、エタノールの刺激臭が前面に出てフレッシュな果実香や酸味が損なわれることが実証されています。
ワイングラスのステムを持つ理由は、単なる見栄えの問題ではなく、醸造家が情熱を注ぎ込んで仕上げた繊細な温度管理を最後まで守り抜くという、極めて合理的な物理的防衛策なのです。
さらに、ボウルを直接触ることでガラス表面に皮脂や指紋が付着し、ワインの澄んだ輝きや色の濃淡、粘性を目視で確かめる歓びが奪われてしまう点も挙げられます。グラスを美しく保つことは、同席者やソムリエに対する最低限のエチケットでもあります。
一方で、ワイングラスのボウルを持つマナーが例外的に許容、あるいは推奨される場面も存在します。それは、レストランのセラーから提供された赤ワインが極端に冷えすぎており、香りが完全に閉じてしまっているケースです。ソムリエ自らが「少し手で温めてからお召し上がりください」と案内した場合に限り、両手でボウルを包み込んで意図的に温度を上げる(シャンブレを促す)所作は、ワインを深く知る愛好家ならではの理にかなった振る舞いとして認められます。