映画『ある男』夫はなぜ別人になった?身元の正体とラストの結末考察
原誠が別人になりすました背景には、刑務所に収監されている戸籍ブローカー・小見浦憲男(柄本明)を介した「戸籍交換」の存在がありました。通常、戸籍の不正取得は単なる偽造や買収で行われるケースが多いものの、本作で描かれたのは「互いの人生を合意の上でまるごと入れ替える」という異様な取引です。
一方、誠に戸籍を譲った本物の谷口大祐(仲野太賀)もまた、伊勢の老舗旅館の次男という恵まれた出自でありながら、厳格な実家や跡継ぎ問題、過去の失恋に激しく苦悩していました。大祐は「谷口家の重圧」から逃れて無名の人間になりたがり、誠は「殺人犯の息子の呪縛」から逃れて普通の人になりたがっていたのです。
利害が一致した二人は、小見浦の仲介によって互いの戸籍を交換。誠は「谷口大祐」として宮崎へ移住し、里枝とその家族に出会いました。誠にとって里枝たちと過ごした穏やかな日々は、嘘の上に築かれた偽りの生活ではなく、人生で初めて手に入れた「本当の自分自身の人生」そのものでした。