ユッケ集団食中毒事件の全真相と教訓|えびす元社長の現在と生食肉基準
事件発生直後、テレビカメラの前で行われた記者会見を覚えている方も多いはずです。フーズ・フォーラスの勘坂産成社長(当時)は、報道陣に対して当初「法的な基準が明確でなかった」「日本中で同じことが行われていた」と開き直りとも取れる発言を展開。世論からの激しい批判を浴びると、その場で突如として床に両手両膝をつき、額を擦りつける「土下座」を行いました。その異様な光景は、企業の危機管理対応における最悪の悪手として今なお語り継がれています。
世間が求めたのは、経営トップに対する重い刑事責任の追及でした。警察当局は業務上過失致死傷容疑で勘坂氏および卸業者の関係者を書類送検し、徹底的な捜査を進めました。しかし、司法の壁は極めて厚いものでした。
検察当局は、事件当時において「牛モモ肉の内部まで菌が浸透している可能性」を具体的に予見することが法的に困難であったと判断。富山地検は勘坂元社長らを不起訴処分(嫌疑不十分)としました。被害者遺族側は検察審査会へ申し立てを行い、一度は「不起訴不当」の議決が下されたものの、再捜査を経ても有罪を立証するに足る決定的な証拠を見出すことはできず、最終的に刑事裁判が開かれることはありませんでした。
一方で、民事上の責任を巡る争いは長期化しました。フーズ・フォーラス社は2011年7月に金沢地裁へ特別清算を申請し倒産。えびす食中毒の被害者や遺族らで結成された被害対策弁護団は、会社および勘坂元社長個人を相手取り、総額数十億円規模の損害賠償請求訴訟を起こしました。裁判では会社の過失責任が全面的に認められ、多額の賠償命令が下されたものの、破産した会社に残された資産はごくわずかでした。
関係者の証言によると、配当として遺族や重症者に支払われた金額は請求額の数パーセントに過ぎず、実質的な被害回復には程遠い結果に終わっています。勘坂産成氏の現在については、実業の表舞台から完全に姿を消し、北陸地方を離れて静かに生活を送っていると報じられていますが、今なお生涯をかけて背負うべき賠償金と被害者への贖罪の義務は消えていません。幼い子どもを失った遺族や、15年近くが経過した現在も腎機能障害などの重い後遺症に苦しみ通院を続ける元患者たちにとって、この事件は決して過去のものにはなっていないのです。