大型貨物自動車の最高速度90キロ引き上げ!現場の異変と全真相
約60年近くにわたり頑なに守られてきた大型トラックの制限速度が、なぜここに来て動いたのか。その背景には、日本のサプライチェーン崩壊に対する警察庁および国土交通省の強い危機感がありました。警察庁が設置した有識者検討会の報告書および最新発表資料を紐解くと、引き上げの引き金となったのは「物流の2026年問題」への対抗措置と、「車両安全技術の劇的な進歩」という2つの歯車が噛み合った結果であることが明白です。
時間外労働の上限規制(年間960時間)がトラック運転手にも厳格適用されたことで、長距離輸送の現場では従来の運行スケジュールが破綻するリスクが現実化しました。時速80キロ走行を前提とした運行ダイヤでは、中間地点での中継輸送やドライバー交代を余儀なくされ、人件費と所要時間が跳ね上がります。そこで、最高速度を時速10キロ引き上げることで、1時間あたり最大10キロの距離延長を可能にし、ドライバーの拘束時間を短縮するという計算が働きました。
もちろん、速度の上昇は運動エネルギーの増大を意味し、物理的には重大事故のリスクを高めます。それにもかかわらず法改正に踏み切れた根拠として、警察庁は衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)の義務化を挙げています。2014年以降、大型トラックへの装着が段階的に義務付けられ、現行の新車では高精度なミリ波レーダーやカメラによる自動制動が標準化されました。有識者会議のデータ検証において、AEBS装着車であれば時速90キロからの制動であっても、旧型車の時速80キロ走行時と同等以上の停止安全性が担保できると結論付けられたのです。