『北の国から』田中邦衛が魅せた名演の裏側と五郎役の秘話を全公開
帽子を深くかぶり、どこか照れくさそうに頬を緩める。黒板五郎という男は、お世辞にも「スマートな父親」とは言えなかった。妻との離婚、幼い子どもふたりを連れての富良野への帰郷、電気も水道もない廃屋での暮らし。近代化に背を向け、手作業で木を切り、石を積み上げて家を建てる姿は、当時の日本人が失いかけていた泥臭い生の営みそのものだった。
田中邦衛という役者が持っていた独特の訛り、吃音交じりの語り口、そして情けない表情の裏に見せる眼光の鋭さ。それらすべてが合わさることで、五郎は単なる架空の人物ではなく、まるで実在する近所のおじさんのように視聴者の生活に入り込んできた。完璧ではないからこそ愛おしい。愚直だからこそ胸を打つ。田中邦衛の演技は、役を演じるという領域を超えて、黒板五郎という人間の人生そのものをスクリーンに刻み込んだのだ。