つわりでなんとなくずっと気持ち悪い?吐かない辛さの正体と対処法
妊娠初期に多くの女性を悩ませる「なんとなくずっと胃が重い」「喉の奥が詰まったように気持ち悪い」という感覚。実際に嘔吐するわけではないため周囲に辛さが伝わりにくく、本人も「つわりと呼んでいいのだろうか」と困惑しがちです。しかし、つわりで吐かないのに気持ち悪い理由には、妊娠成立に伴う極めて明確な生理学的変化が存在します。
最大の要因は、胎盤のもととなる絨毛組織から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の急増です。hCGは受精卵が着床した妊娠4週頃から分泌され始め、8〜10週頃にピークを迎えます。このホルモンが脳の第4脳室底にある嘔吐中枢(CTZ:化学受容体引き金帯)を刺激することで、持続的な乗り物酔いに似た感覚が生じます。嘔吐中枢への刺激が閾値を超えれば激しい嘔吐に至りますが、閾値の直下で刺激が延々とくすぶり続けると、「吐くには至らないが四六時中気持ち悪い」という状態が固定化されます。
さらに、妊娠初期におけるホルモンバランスと吐き気の真相を語る上で欠かせないのが、黄体ホルモンである「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の働きです。プロゲステロンには子宮の収縮を抑えて妊娠を維持する極めて重要な役割がありますが、同時に全身の平滑筋(筋肉)を緩める作用も持っています。これにより胃や腸の蠕動運動が著しく鈍化し、胃酸の逆流や食物の停滞が引き起こされます。これが、妊娠初期にずっと胃もたれやムカムカが続く大きな原因です。
近年では、胎児・胎盤組織から産生されるストレス応答性サイトカイン「GDF15(増殖分化因子15)」と母体の脳幹にある受容体(GFRAL)の相互作用が、つわりの重症度を決定づける主因として国際的な医学界で実証されています。母体がもともと持っているGDF15への感受性によって、激しく嘔吐するタイプになるか、低レベルの悪心信号を絶え間なく受け取り続けるタイプになるかが分かれると報告されています。したがって、吐かないからといって体内で起きている生理学的ストレスが小さいわけではありません。