江戸川乱歩『人間椅子』結末の嘘とは?手紙に隠された衝撃の真相を考察

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物語は、美貌と知性を兼ね備えた新進気鋭の女流作家・佳子(よしこ)の書斎から始まります。外交官の夫を送り出し、毎朝の日課であるファンレターや原稿の確認を行っていた佳子は、差出人の名がない分厚い封書に目を留めました。封を開けると、原稿用紙数十枚に及ぶ異様な告白文が記されていました。

手紙の主は、極度の醜貌ゆえに幼少期から他者との関わりを避け、孤独の中で家具職人として生きてきた男でした。男はある日、贅を尽くした大型肘掛け革椅子の制作を依頼された際、魔が差したように「椅子の中に人間が生活できる空間」を設計することを思いつきます。水、ビスケット、空気穴、汚物処理用のゴム袋を備え、自ら椅子の中に潜り込んだ男は、そのまま納品先である横浜の高級ホテルのロビーへと運び込まれました。

男は椅子の内部から、革越しに座る無数の滞在客の体重、体温、衣服の擦れる音を感じ取ることで、かつて味わったことのない倒錯的な陶酔を覚えます。やがてホテルが経営難に陥り、家具一式が転売された先こそが、他ならぬ佳子の邸宅の書斎でした。男は手紙の中で、佳子が毎日腰掛けるたびにその柔らかな身体の感触や吐息、香りを布一枚を隔てて貪り尽くし、いつしか狂気的な恋情を抱くに至った経緯を赤裸々に綴ります。

そして手紙の最後には、読者を凍りつかせる戦慄の一節が記されていました。

「私がこうして恋慕の情を告白している今この瞬間も、私はあなたが腰掛けておられるその椅子の中に潜んでいるのです」

手紙を読み終えた佳子は、全身の血が引くような恐怖に襲われ、悲鳴を上げて椅子から飛び退きます。狂乱状態でその場から逃げ出そうとしたまさにその瞬間、女中が「先ほどの手紙の差出人から、もう1通手紙が届きました」と2通目の封書を運んでくるのです。

震える手で開いた2通目の手紙には、極めて慇懃な文面で次のように記されていました。「先ほどお送りした原稿は、不肖私が執筆いたしました創作小説の草稿に過ぎません。突然の不躾な原稿送付をお許しください。もし佳子先生のお気に召しましたら、作品に『人間椅子』という題名を頂戴できれば幸甚に存じます」

木村 陽翔

木村 陽翔

テックライター兼ウェブディレクター

デジタルガジェットとスマート家電の検証記事を多数執筆。失敗しないモノ選びを提案します。