標高1000メートルの夜を支配する蕎麦と美酒――2026年、なぜ「川上庵」は軽井沢の胃袋を掴んで離さないのか
主役である蕎麦を語らずして、この店の魅力は始まらない。川上庵が頑なに貫くのは、特注の石臼で粗く挽いた信州産を中心とするそば粉を用いた「二八蕎麦」だ。箸で持ち上げた瞬間にわかる、表面のざらりとした野趣あふれる質感。そのまま手繰り寄せて噛み締めれば、豊かな穀物の甘みと香りが口いっぱいに広がる。
合わせる辛汁(つゆ)は、醤油の角が取れた熟成かえしに、厳選した鰹節の旨味を極限まで凝縮させた濃厚仕立て。この力強い出汁が、蕎麦の強いコシと見事に拮抗する。蕎麦の先端をほんの数ミリだけつゆに浸し、一気に啜り上げる。冷涼な浅間山麓の水でキュッと締められた麺が喉を滑り落ちる瞬間、計算し尽くされた味の調和に思わず唸らされる。