魔女の宅急便と松任谷由実の真実|主題歌起用の裏側と名曲秘話
スタジオジブリ作品の主題歌といえば、作品の世界観に合わせて作詞・作曲されるオリジナル楽曲が通例でした。しかし、『魔女の宅急便』において鈴木敏夫プロデューサーが下した決断は、異例ともいえる「既成曲の採用」でした。
制作当時、思春期特有の伸びやかさと脆さを抱えるキキの心情を表現するにあたり、制作陣は楽曲の選定に頭を悩ませていました。その突破口を開いたのが、鈴木氏が足を運んだ松任谷由実さんのコンサートでした。洗練された都会的なメロディの中に、少女から大人へと移ろう季節の切なさを宿したユーミンの楽曲群に触れた鈴木氏は、「キキの物語に寄り添う音楽はこれしかない」と確信を抱きます。
宮崎駿監督自身、当初は映画用に新たなイメージソングを作る構想を持っていましたが、鈴木氏の提案した『ルージュの伝言』と『やさしさに包まれたなら』をラッシュフィルム(編集途中の映像)に合わせて検証した瞬間、その親和性の高さに納得を示しました。1989年当時のリアルな少女たちがカセットテープやラジオで聴いているような「日常の空気感」を劇中に持ち込むため、1970年代の荒井由実サウンドが選ばれたのです。