田中邦衛が遺した魂『北の国から』黒板五郎の真実と不滅の名演録
田中邦衛の真骨頂は、その底知れない振り幅の広さにある。1960年代、東宝の『若大将シリーズ』で見せた「青大将」こと石山新次郎役では、金持ちのボンボンで調子が良く、どこか憎めないコミカルなライバルを軽妙洒脱に好演。加山雄三演じる爽やかな主人公の魅力を最大限に引き出すコントラストとして、絶妙なスパイスを効かせた。
しかし、そのイメージを東映のヤクザ映画の金字塔『仁義なき戦い』で見事に裏切る。菅原文太演じる広能昌三の盟友でありながら、保身のために策略を巡らせ、裏切りを繰り返す槙原政吉役。凄惨な抗争のなかで、恐怖に怯え、狡猾に立ち回る男の卑小さを生々しく怪演した。菅原文太との息詰まる丁々発止の掛け合いは、今なお邦画史上に残る伝説的なシーンとして語り継がれている。軽薄な喜劇役者から冷徹な悪党まで、一見正反対の役柄を縦横無尽に行き来するその技量は、当時の映画界に決定的な衝撃を与えた。